Wednesday, July 6, 2011

JABIナビゲーターのミッション

私はJABIが名づけた、「ナビゲーター会員」という言葉が好きだ。JABIのナビゲーター会員は、米国の業界がよくわかっている経験豊富なコンサルタント集団である。

弊社ではよく「業界知識」と言っているが、弊社の場合は、バイオ、ライフサイエンス業界において、会社であれ、キーパーソンであれ、製品名であれ、 ある取引名であれ、それが単なる言葉ではなく、2次元、3次元、4次元の知識として知っている。ある製品の話題になれば、その製品がどういう背景でどうし てそれが作られたか、どうしてこの会社はこれをつくり、別の会社は別の方法で作っているのか。それは、特許のせいかもしれないし、あるいは、共同開発の相 手が違うからかもしれない。そのような知識があるからこそ、クライアントの悩みを素早く理解し、そこからより効率よくクライアントを成功に導く。このよう な役割をするのがナビゲーター会員の一つの仕事である。

日本企業は米国企業になめられてしまうことがよくある。この問題こそが、私が米国での生活が長くなるにつれて、自分たちの力でどうにかしたい課題になっていった。以下にいくつかの例を挙げ、ナビゲーターの役割について考える。

(1)米国に無数に存在する米国のベンチャー企業が、日本のベンチャーキャピタルからファンドレイズをしようとする場合がある。本来なら米国のベン チャーキャピタルから資金を集めたほうが、ベンチャーキャピタルの豊富なネットワークにアクセスを持つことができて有利なはずである。しかし、日本のベン チャーキャピタルは意外に人気がある。それは、日本のベンチャーキャピタルは、「お金は出すが、口は出さない」のでマネージメントがし易いと思われている からである。一方で、ライフサイエンス、バイオ系の投資に関しても、私はひどい例をいくつか見てきた。つぶれそうな会社であるのに、それを隠して日本の投 資家から資金を集め、本当にすぐつぶれてしまった例や、マネージメントを全部取り替えてビジネスプランも変え、既存投資家にはほとんど権利を残さないよう にしたにもかかわらず、その事実をきちっと投資家に報告しなかった例。または、巨額の投資を要求しながら、わずかな権利しか日本企業に渡さなかった例。

(2)アメリカからのネタ探しをビジネスにする場合も同様である。新しいネタがどこにあるのか。新しいものを見た時に、それが新しいものだというこ とがわかるのか。どうやったら米国企業のプレゼンテーションに誇張や偽りがないかを見抜くか。海外の案件が不当に高い値段がついて日本企業が買わされる ケースはよく見かける。

私は、普段から、このような状況に日本の企業が陥らないように、自然にゲートキーパー的な役割を果たすことが多い。フェアなディールを行うには、知 識や経験が武器になる。そういう人材が自社内にいることが望ましいかもしれないが、そういうことを専門にしているのがナビゲーターである。

(3)上と逆に、自分の持つ技術を、どうやって海外に売っていくか。日本の重要な発見が、米国企業に安く買いたたかれるケースがある。「海外展開」 に力を入れるばかりに、とにかく契約を結ぶことに専念してしまい、海外の企業のパートナーの言いなりに特許のライセンス権を与えてしまうようなケースも見 かける。一方で、同じ特許の事業化を行っている国内企業は、海外企業より厳しい条件を与えられたりする。そうすると、国内企業は海外企業より不利な条件で 製品化を行わなくてはいけなくなる。そして、関係者に聞くと、「海外での実績は、国内向けのアピールでもありますから、この技術が海外で認められた、とい うことが国内のお客さんにわかればいいのです」と答えることがある。しかし、これでは日本の国家的利益を損なわないだろうか?

ナビゲーターは、日本発の技術を見て、それが世界に通用するものであるか、あるいは通用するものにするにはどうしたらよいか、それがわかる。あるい はその場でわからなくても、それを知る手段やノウハウを持っている。価値のあるものであれば、米国のより良質な顧客やパートナーを複数見つけてくること で、技術の価値を高めることもできる。私の専門であるバイオ、ライフサイエンスの分野では、今幹細胞ブームになっていて、新しい特許が次々に成立してお り、分野がグローバル化し、日本の競争力が試される時が来ている。iPS細胞という細胞の作成技術は日本発の技術である。日本発の技術を使って、どうやっ て、人々の健康のために技術を生かすことができ、どのように日本の産業を活性させることができるか。

私自身もナビゲーター会員として、関連世界の全体像を把握することで、上述のように日本企業が不利になるような状況を少しでも改善し、クライアントの利益を守ることをミッションとし、日本企業の健全なグローバル化に貢献したいと思っている。

二村 晶子 (InfiniteBio)

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