Thursday, August 22, 2019

6th JABI Open Innovation Forum「次世代の自動車産業」

8月13日に「次世代の自動車産業」と題したオープンイノベーションフォーラムを開催いたしました。当地、シリコンバレーで自動車産業に従事されている3名をお招きし、講演・パネルディスカッションを執り行いました。

◆講演パート


「日本の製造業が取り組むデジタルトランスフォーメーション」 岩﨑 悠志様(株式会社ブリヂストン)

講演する岩﨑さん
近年、タイヤマーケット自体は世界的に伸長しているにもかかわらず、メーカーにおけるビッグ3(ブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤー)は、新興企業の台頭によりそのシェアを落としています。そこでブリヂストン社はタイヤの製造販売業から、ソリューションプロバイダーとして事業を拡大するべく、デジタルトランスフォーメーション(DX)を重要視されているそうです。特に「CAIS」というセンシング技術では、タイヤにセンサーを搭載することでデータを集積し、データからタイヤの摩耗状況・路面状態を検知することで、冬期の路面凍結に対応した高速道路管理の支援を行っています。将来的にはto C向けのソリューションも提供していきたいと考えていらっしゃるそうです。また、DXを扱う人材としてデータサイエンティストの需要が高くなっていますが、日本ではそもそもの人材の母数が少ない上にそういった人材はIT企業に行きがちなこと、データサイエンスにおいてはドメイン知識も重要であることなどから、ブリヂストン社では社内での人材育成を進めているそうです。質疑では空気圧センサーやインホイールモーターの開発の有無などがあがりましたが、ブリヂストン社では産学連携しながら共に取り組んでいらっしゃるとのことでした。


「日本の製造業がシリコンバレーを活用した新規事業開発」大貫 悠太様 (Suzuki Motor of America Inc.  )

講演する大貫さん
Suzuki社では2016年から次の100年に向けた土台作りを目的に、シリコンバレーを拠点とした企業変革の取り組みを開始しています。その一つとして、大貫さんは、デザイン思考を活用したセニアカーの次世代モデル開発に携わられています。開発はスタンフォード大学でのデザイン思考に関する講義の受講、ユーザーインタビューや車いす生活の体験などのプロセスを経て進められています。決まったオフィスやデスクでの作業はなく、またチームメンバー同士でシェアハウスを行っているなど、ビジネス環境が非常にユニークな点も特徴的でした。質疑応答では、コンセプトモデル立案の際にシリコンバレーだからこそできたことは?という質問に対して、社内からトップダウンで下った指示に従うのではなく、実際のユーザーや現場に多く触れることでお客様にとって本当に良いものを引き出す取り組みができている、と回答されていました。まさにそういった自由な気質を与えてくれるのが、シリコンバレーの良いところなのかもしれません。


Kodiakの事業内容について 塩野 皓士様(Kodiak Robotics)

塩野さんの講演を熱心に聴講する参加者
Kodiak Robotics社は、Mountain View, CAに本拠地を置く、自動運転トラックのスタートアップです。現在は高速道路区間の自動化に注力しており、この8月よりテキサスの高速道路での実用化が開始されました。対象を長距離トラックに限定した理由としては、走行場所が限られていることなど技術面での敷居が比較的低いこと、宅配運送業の産業規模が大きいこと(年間$800B)、長距離ドライバーの不足が社会的課題になっていることなどがあげられているそうです。特に最後の課題に関しては、トラックドライバーは長期で家を空けることが多く、現在の生活スタイルにそぐわないことから若者を中心に職業としての魅力が低下していると考えられています。自動運転技術を使えば、人力で運転する区間が限られるためドライバーの生活スタイルに支障をきたすことが少なくなります。そういったことも手伝って、自動運転技術と宅配運送業がシナジーを生んでいるとも考えられています。ただし完全な自動運転(Level5)を実現する難易度の高さ、州法の壁など、今後解決していかなければならない課題も存在しています。質疑応答においても、自動運転技術の実用化が遅れている最大の要因はなにか?という問いが出ました。それに対し塩野さんは、車体の周囲すべての物体を検知する技術、人間のドライバーがなすような微妙な場面での意思決定の判断基準を織り込む技術などの不足を理由としてあげられていらっしゃいました。


◆パネルディスカッションパート


講演者3名にファシリテーターの大永(JABI Co-founder, JABI理事, Innovation Matrix,inc., CEO) を加えた4名にて、パネルディスカッションを執り行いました。また、視聴者からも適宜質問が飛び交い、非常に活発なディスカッションとなりました。

パネルディスカッション

大永:現在トラックに特化したベンチャー企業は何社くらいあるのでしょうか?また、他社と比較した際のKodiak社さんの優位性はどんなところにありますか?

塩野:10社くらいだと思います。競合他社と異なり、運送業そのものをビジネスモデルとして採用しているところに特徴があります。あとはCOOがVCの出身なので、会社の運営に精通しています。

大永:スズキさんはセニアカーの開発に取り組まれていますが、ブリヂストンさんにおいても高齢者向け事業は行われていますか?

岩﨑:直接的ではないですが、スポーツ関連事業の一環として人工筋肉のサポート製品などを開発しています。

大永:ブリヂストンさんにおいて、センサーで読み取ったタイヤに関するデータの集積先は、車本体になるのでしょうか?それとも、クラウドになるのでしょうか?

岩﨑:現状、無線でデータをとばしてクラウドに保管しています。

大永:それからセンサーを取り付けたタイヤは通常のものよりもコストが上がると思いますが、どのように投資回収していくのでしょうか?

岩﨑:まさにそこが課題の一つです。先ほどご紹介したCAISに関しても、一般消費者がわざわざセンサー付きタイヤを買いたいかと言えばNOです。なので、特にto Cに関しては課題があります。to Bに関しては、センサーやメンテナンスも込みのサブスクモデルも検討しています。
満員御礼!たくさんの方が参加されました

大永:ブリヂストンさんのセンサー付きタイヤにおけるような、ユーザーに安心感を与える取り組みはとても素晴らしいと思います。他2社さんにおいてはこのような取り組みはされていますか?

大貫:スズキでは走行データをクラウドに集積しようとしています。そのデータを基に、ユーザーに安全性を警鐘するような取り組みを現在行っています。

塩野:Kodiakでは、自動運転トラックが人間より安全と確証されるまでバックアップドライバーを設置し続ける方針です。

視聴者:そのバックアップドライバーを置かない、と決定するための明確な判断基準はあるのでしょうか?

塩野:現時点で明確な規定はありませんが、統計的に安全が保障された後に無人化の議論も始まると思います。

視聴者:無人運転は法的には許可されているのでしょうか?

塩野:州によって異なりますが、例えばテキサスでは許可されております。

視聴者:自動運転の車が事故を起こした場合メーカー側の責任が問われることが予測されますが、そのことに関してKodiakさんはどのようにお考えになっていますか?

塩野:まさにそれがKodiakでも安全性をプライオリティの最上位においている理由となります。そして現在は、もしそのような事故が起こった場合の責任はすべて弊社にあるというのが会社としてのスタンスになります。

大永:ブリヂストンさんがタイヤから集積したデータは、将来的に他社とも共有できるようになるのでしょうか?

岩﨑:我々自身がデータを共有するためのプラットフォーマーになるのか、もしくはそこに乗っかる企業になるのかは現時点では確かではありません。収益化や社会的責任を考えると、あくまでブリヂストンは部品メーカーなので攻めづらい領域ではあります。

視聴者:データサイエンティストを社内育成されているとおっしゃっていましたが、そういった人材こそ社外リソースを使ったほうが効率的なのではないでしょうか?

岩﨑:データサイエンスの難易度は、ビジネス課題からデータに落とし込むところにあると考えています。そしてそれができるのは社内の人間のため、社内教育を進めています。おっしゃるように社外リソースを活用することで効率化は図れますが、少なくとも初期分析までは社内で続ける方針です。

大永:スズキさんのシリコンバレーでの取り組みに関して、社内の各レイヤーにおける評価の違いなどは出ているのでしょうか?また、全社での報告などはされていますか?

大貫:すでに全社報告も行っています。ブートキャンプ形式の実践なども行っているので、苦しいこと=仕事という考えが強い人からは反対意見も出ています。しかし経営の上位層などからはきちんと理解が得られているため、問題ないと考えています。

大永:デザイン思考という言葉は2005年から提唱され、アメリカでは既に新しいものとしての印象はなかったのですが、日本ではいつ頃から浸透していったのでしょうか?

岩﨑:私は2016年か17年に当時の上司から聞きました。それまで技術先行的な考え方の時代が続いていたので、真新しく感じたのかもしれません。

大貫:私も2017年の研修時に初めて聞きました。スズキの社内でも、この言葉について理解している人間はあまり多くはないかもしれません。ですが、本質的には日本人の文化・心情に根付く思想ではあると思います。

塩野:大学時代に知り、何度か実際に実験したこともありますが、デザイン思考を経て到達した解が自分たちの分野から離れたものになった場合に、それをやらないと判断するのはとても難しいことだと思います。

大永:デザイン思考とアジャイル開発との関連をどのようにお考えになりますか?各企業ではデザイン思考をどのように取り入れているのでしょうか?

岩﨑:日本人はアイディアをあたためて出すタイプだと思います。それに対して、海外ではとんでもないアイディアでもとりあえず出す文化です。そういった違いがある中で、デザイン思考をそのまま日本に適用できるかは少し疑問です。

大貫:相手への共感、日常業務など、ビジネスだけでなく様々な場面にデザイン思考は適用できると考えています。

大永:スズキではオートバイ、自動車、マリン、福祉車両などをビジネスとして設けていらっしゃいますが、将来的なセニアカーのビジネス比率はどの程度となる想定なのでしょうか?

大貫:現状では、4輪自動車が9割、またインドなどの新興国を中心に引き続き4輪が伸びる想定です。

大永:今各社で取り組まれている製品開発に、シリコンバレーが最も得意とするITの技術は必要なのでしょうか?

岩﨑:私が最も強く関連しているところでいうと、やはりデータサイエンティスト人材の育成が関連してくると思います。

大貫:セニアカーの技術、工場における検査などに活用したいと思います。

塩野:必須です。今取り組んでいることすべてが関連しています。

大永:最後の質問です。20年、50年後の自動車産業はどのようになっていると考えられますか?

岩﨑:タイヤがなくても人が移動できる時代にはなっていると思います。なのでタイヤメーカーとしては、危機感を感じています。

大貫:実現の難易度を考えると、まだ人は車を運転していると思います。

塩野:トラックは近未来中に自動化すると思います。そこから徐々に拡大してインドのような道路状況の場所(僕らは勝手にLevel6と呼んでいます(笑))でも実用されるはずです。あとは個人的に仮想現実が進んでいくと思います。人をどう動かすかではなく、人間をいかに動かさずに済むかという方向に考え方がシフトしていくのではないかと思います。

講演者に感謝状を授与!


◆筆者所感


たくさんの種類のピザが振舞われました!
今回JABIのOpen Innovation Forumにボランティアとして参加し、自動車産業というこれまではあまりご縁がなかった業界の皆様の先端技術に関するお話をお伺いすることができ、大変勉強になりました。自動車をはじめとして、日本を代表する産業はその技術の細やかさが世界で戦う大きな武器となっているように思います。そこにシリコンバレーの最先端のテクノロジーが融合すれば、JABIの理念でもある日米間のビジネス進出と飛躍が一気に期待できるのではないかと改めて感じた機会でもありました。また、日本から離れたシリコンバレーだからこそ、改めて日本の産業を広く見渡すことができるのも、この土地がもたらしてくれる大きな利点なのではないかと思います。ここで一つでも多くの日本発ビジネスが生まれ、またビジネス同士が繋がっていく場所づくりのお手伝いをJABIを通して私自身お役に立てたら嬉しいと思いました。

講演の内容に関して、3社とも次の時代の柱となる事業を生み出すために、シリコンバレーという地を選んで活動をされていることがわかりました。そしてその飛躍の重要な鍵となるのが、先端テクノロジーに強い人材、データの取り扱いに強い人材であることは間違いないと感じています。筆者はIT企業でビッグデータを扱う部門に所属していたこともあり、特にデータサイエンス人材の重要性に関しては身近に感じるところがありました。岩﨑さんがおっしゃっていたように、データサイエンティストは単にデータを引き出すだけではなく、ビジネス課題に対するソリューションを提供するところまでが期待される役割となります。また、集積するデータの内容を決定したり、膨大な情報を必要な形に変換したりするデザインスキルも必要となってきます。そのためデータサイエンティスト自身の事業に対する深い理解は必須となり、少なくとも一連の流れをきちんと理解したうえでディレクションができる人材の社内育成は、どの企業・どの業界でも必須となってくるのではないでしょうか。また、特に事業を多角的に展開している企業においては、データをデザインできる人材が社内にいて横軸で機能することによって、様々な負担が軽減されるなどメリットが大きいのではないかと思います。

筆者:久保田華凜(JABIボランティア)

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