Tuesday, July 7, 2015

ロボットフォーラム レポート



去る6月25日、サンノゼにあるJABIL社のBlue Sky Innovation CenterにてKorea Robot Forum & Business Roadshowが開催されました。韓国のDaegu(大邱)市から10社以上が参加し、ロボット向けの部品や部品加工技術などの紹介が行われました。ロボット向けといっても、自動車や携帯電話など他の業界向けに展開されている部品や装置を、ロボット向けに売り込むのが目的の様でした。 今回はシリコンバレーのロボット業界著名人が参加し、キーノートやパネルセッションが開かれ、興味深い話が聞けましたので、内容をレポートしたいと思います。

JABILは今年で50周年になる米国のEMS企業で、さまざまな製品を生産している会社です。イベントのホストだということもあり、まず、Senior Vice President of Marketing and SalesのJoanne Moretti氏からJABILの歴史やビジネスについての紹介がありました。またUS Commercial ServiceのJoanne Vliet氏が米国と海外企業を繋ぎ米国直接投資をサポートする、Select USAプログラムについて説明され、米国に100拠点、海外に100拠点を設けての活動をしているとの事。詳細は日本語のサイトを参照ください。http://www.buyusa.gov/japan/investinamerica/index.asp キーノートスピーチではJABILのJohn Dulchinos氏やiRobot (Roomba)開発の父として知られている、Scott N. Miller 氏が登壇されました。 

John Dulchinos氏のプレゼンは以前にも一度聞いたことがあるのですが、彼が30年前にサービスロボットの未来を夢見てこの業界に飛び込んだが、今になって、その時に語られていた世界が来る素地が、やっと揃ったと話されていました。技術の進化や部品コストの低下、人工知能の発達といった要因だけではなく、労働人口の減少や労働コストの上昇によってロボット導入のビジネスケースができ、新たにロボットが注目されて来ているようです。

例えば、今まで世界の製造工場として機能してきた中国の製造業における労働コストは、この数年でメキシコを抜き、また新興国の賃金も増加している為、今後は製造用のロボット、特に組み立て工程でのロボットの必要性が大幅に増えるだろう。加えて、少子化対策の影響で人口分布が偏っており、高齢化社会におけるサービスロボットの必要性も増えるとのこと。日本で起きていることが数桁大きいレベルで起きてくるので、製造現場や社会インフラへのロボットの導入が加速しそうです。

次に、iRobot開発の父として知られているScott Miller氏の話が聞けたのは大変有意義でした。MIT時代に作ったマグロロボットでマグロの水泳効率を再現した話から、Walt Disney社で数メートルある巨大恐竜ロボットを作った話、Hasbro社向けに低価格な幼児用の人形を作った話など盛りだくさんでした。面白かったのはiRobotルンバ掃除機がヒットした後、Scoobaという床拭きロボットを開発したが、さっぱり売れなかった理由です。ルンバは競合製品が掃除機なので値段が高くても消費者は購入したが、Scoobaの競合は数十ドルで入手可能なモップなので、値段を200ドルレベルに下げる必要があったということです。また、iRobotを開発した理由も面白く、人々にどんなロボットが欲しいかと聞いて回ったら、掃除機かビールを持ってきてくれるロボットが欲しいというのが圧倒的に多かったからだそうです。

Scott Miller氏は現在Dragon Innovationでさまざまな新しい製品を製作しており、開発例には有名なSpheroやJIBOがあります。このような新製品の開発は2ステージあり、まずはプロトタイプの開発、それから量産向け開発となります。プロトタイプの開発は、最近の技術の進歩でさまざまなツールがあるため、比較的簡単にできるようになったとの事。3Dプリンターや、Arduino, Beegle board, Rasberry PIなどの開発ボード、ROSなどのオープンソースソフトのおかげで、特別な電気工学や機械工学の知識がなくても開発ができるという状況が、さまざまな製品アイデアの実現化に貢献しています。量産フェーズでは、少量多品種開発向けにRethink RoboticsのBaxterのような組み立てロボットがでてきており、今後は過去の大量生産から少量多品種生産に移行していくだろうと説明されました。また、ミレニアル世代といわれる16歳 -34歳の世代は、製品へのこだわりや新製品への興味が高いのと、米国では団塊の世代と同数の人口比率で存在する為、今後少量多品種に消費の傾向を変えてくるのではとの事でした。

Translink CapitalのJay Eum氏はSamsung Ventures の米国トップの経験から自分のベンチャーキャピタルを起こした人で、キーノートでは起業と海外展開について話されました。韓国系米国人のEum氏は韓国で最近成功したインターネット企業を紹介。日本でも知られているネイバーやカカオトーク, 最近ソフトバンクが投資をしたクーパンなどについて、ローカルマーケットで勝利する重要性について説明されました。ハードウェアビジネスは海外向けの展開も大事だが、リテールやローカルなサービスの場合は、無理して海外向けに展開して失敗するよりもまずは自国での地固めが重要で、成功ファクターとしては、抵抗の低い道を選ぶこと、ビジネスのバランスを考慮してマーケット機会を選ぶこと、内部リソースと外部のネットワークを最大限活用することなど、具体例を挙げて説明されました。

キーノートの後はパネルセッションに以降。ここでも著名人のコメントが多く聞けました。最初のセッションは”工業ロボットの新たフロンティア“ “New Frontiers for Industrial Robotics”というタイトルで、Baxterで有名なRethink RoboticsのBrian Benoit氏、Fetch RoboticsのCTOのMichael Ferguson氏、Stanford Research Institute(SRI)発 でArtifical Musleから進化した会社Grabitの投資家、Charlie Duncheon氏、ABBからもパネル参加され、工業ロボットの未来について話されました。

工業用ロボットで今後期待されるのは、人と共存して組み立てができるロボット(ABB YuMi Rethink Robotics Baxterなど)です。またAmazon のKivaロボットのように工場や倉庫などで製品やパーツを選び運搬するロボット(Fetch Robotics)、さまざまな製品を傷つけることなく掴める技術(Grabit)などの紹介がありました。Grabitとは従来機械では不可能であった布,織物を掴むことができるため、繊維工業の製造工程の自動化が可能になります。

組み立てロボットの問題点についても議論されました。少数多品種の生産では短期間に生産ラインを立ち上げ、短期間生産した後また短期間に別の製品に変更する必要性があるため、現在のロボット機能変更のフレキシビリティ(柔軟性)では追いつかず、まだまだ人間が作業をする必要があるようです。ロボットの技術が進歩し一台で複数の作業を学習することができるようになれば、前出の人口減や人件費高に対応できてくると考えられ、今後の技術進歩が期待されています。

最後は、Silicon Valley Roboticsの会長でありSRIのロボット研究所長Rich Mahoney氏、ホテル向けサービスロボットSaviokeのCEO、Steve Cousins氏、iRobot VenturesのHans Anders氏、ElementのTim Smith氏が登壇、そしてSilicon Valley RoboticsのExecutive Director, Andra Keay氏をモデレーターとしてパネルセッションが行われました。

Mahoney氏は、SRIにおけるロボット開発の状況と、最近開催されたDARPAロボティクス・チャレンジについて紹介がありました。SRIでは今までの半分の電池容量で3時間歩き続けるロボットや超軽量アシストスーツを開発しているとの事。DARPAロボティクス・チャレンジにはメディアが300社も参加し、内100社は日本のメディアだったそうです。日本のロボットに対する熱意が感じられました。今回の大会では雰囲気が以前とはずいぶん変わり、まるでスポーツ・イベントのように観客が歓声をあげたり応援をしたりしていたのが印象的だったようです。ロボットが転ぶシーンはYoutubeで何度も流され、米国内のロボットに対する悪いイメージ(映画ターミネーター、労働を奪う敵など)の改善に役だって良かったとのコメントもありました。

SaviokeのCousins氏は、ロボットのハードとソフトのバージョン管理や、アップグレードの大変さについて説明されました。サービスロボットを社会に理解してもらい浸透させるためには、ストーリーボードやビデオなどで利用シーンを説明すると良い。iPhoneができるまで誰もスマホの必要性を感じなかったのが、今は、スマホなしでは考えられないように、ロボットも利用シーンが明確になれば必要と感じてもらえるという話でした。これは技術先行で開発した後、誰も買わないと言った問題の解決に有効だと思います。最近はKickStarterやIndigogoなどでビデオを見せて投資を募ることが流行ってますが、同じ考えであると感じました。 今回のイベントでは、人間の代わりをする組み立て用ロボットやサービスロボットが浸透していくのにはまだまだ大変な道のりであるが、コストパフォーマンスがビジネスモデルの境界線を越え、急激に採用が進む時代が間近に迫っているのではと感じました。Dulchinos氏が30年前に夢見た世界が、あと数年でやってくるのかも知れません。

岡田朋之

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