Sunday, May 8, 2011

誰も語らない起業家に必要な能力

まず前置きとして。以前にオバマ減税の効果について、滔々とブログを書いてみた。会計・経理関係の顧客からはかなり評判が良かったのだが、一般人にはさっ ぱりだったようだ。矢張り、専門の議題と言うのはブログに向かないようである。会計士として働いて、携わった企業は軽く100社を超えた。シリコンバレー での米国ベンチャー会社も30社以上は担当した物だ。人は、起業して成功するタイプの人間として、良く才能、人徳、努力等を挙げて礼賛する。確かにその通 りだ。類稀なる才能。人を惹き付ける魅力。寝食をも惜しまぬ努力。どの本を手に取っても、苦労話が美談として並んでいる。然し、起業家に必要な能力とは果 たしてそれだけなのだろうか。今回、私自身の経験と、今まで触れ合ってきた起業家達を観察した上で、私の独断と偏見を以って、誰も触れない、起業家に必要 な能力を記してみた。

1.嫌われ力。どの本を読んでも、人を惹き付ける魅力が必要、と書いてある物だ。だが、私は敢えて嫌われ力を提示する。何故か。それは成功する起業家とは、必 ず嫌われる存在だからである。起業家に秀逸した才能があると仮定して、その能力を皆が理解出来る訳では無い。スタートアップ時は激務になる事も、凡人には 行く先が見えない事も多い。奇人変人と言われる事もあるだろう。優秀な起業家は、部下に対しても必然的に仕事のハードルが高くなる。起業家のビジョンを理 解出来ない人達は、彼をほら吹き呼ばわりして辞めていく事だろう。米国ではスティーブ・ジョブス、日本では孫正義と言った名だたる起業家ですら、理解され ない時代を過ごした。起業家は八方美人で務まる物では無い。理解出来ない者に嫌われる事を厭わぬ力。だから嫌われ力が必要なのである。

2.孤独耐力。何と言っても起業家が一番悩むのが孤独感。こればかりは起業をしてみた人間にしか分からないだろうが、組織の頂点に立つ人間という物は、周りの 理解を得られない事に苦しむ。組織の下の人間であれば、お互いつるんで上司の愚痴を言いながら一杯、等とやる物だが、社長ともなると社内の者に愚痴をこぼ し回る訳にはいかないし、社外の者と話しても、真に理解してくれる訳では無い。前述の通り、優秀な起業家であったとしても、周りが理解してくれるとは限ら ない。起業家は、ただ黙って孤独に耐える能力を要求されるのである。

3.睡眠力。起業家に掛かるプレッシャーと言うのは、並大抵な物では無い。資金繰り、企画・開発、納期、人事、顧客対応等々重大な問題が目白押しである。起業 家とは、常に課題の山の上に寝ている存在なのである。しかも、その山とは、成功すれば益々大きくなり、失敗すれば剣山となる。この重圧に、並の人間であれ ば眠れぬ日々を過ごすだろう。睡眠不足の頭で仕事に望み、効率の悪い仕事をして、作業時間が延び、また睡眠時間が減る。この負のスパイラルに陥る起業家も いる事だろう。重圧の下にあったとしても、強かに眠れる力。これは起業家にとって、かなり重要な資質である。

4.思い込み力。信念、と言えば聞こえはいいが、未来の予想等、誰に出来る訳も無い。経済学者の予想は大概外れるものだ。開発する商品・サービスが売れる、と 言うのは例え各界のスペシャリストを招聘し、侃々愕々の議論をした所で、分かる物では無い。AppleのiPadも、元々は大して売れる見込みが無い商品 だった物を、ジョブスの鶴の一声で開発に至ったと言う。商品の開発・売込みを成功させる力と言うのは、哲学的な信念と言うより、思い込みに近いのでは無か ろうか。「俺が作ったこの製品を、消費者は便利に(或いは楽しく、等々)思い、買ってくれるに違いない」。この重大な思い込みこそが、起業家を動かす力に なる。よって、私は起業家には思い込み力が必要だと思うのである。

5.インターバル走力。起業に際し、大変な労力が必要となる事は言う間でも無い。それには全速力で膨大な量の仕事をこなす、短距離走の力が要求される。特に新 しい分野の仕事を開拓しようとしている場合、アイデアを競合他社に負けないスピードで実現する事が、競争力を生む。が、それだけでは会社の運営を続ける事 は出来ない。全速力で起業を成功させた後は、次のフェーズに向けて休息を取りつつプランを練り、また次のプロジェクトを全速力で成功させる。この繰り返し が出来る事が、スタートアップ企業が本当に成功するか否かの分かれ道になる。だから、インターバル走力が、起業家にとって不可欠な訳である。  

以上、立派な本では見掛けない、起業家に必要な能力と言うものをつらつらと書いてみた。勿論、起業家に関する本で、彼が偏屈であり、嫌われる事もある、と は書いてある事はあるが、実はそれを厭わない事こそが、能力の真髄である、と断じてある本は少ないと思う。(個人的には見た事が無い。)最近、日本で起業 がある程度ブームになって来ているようだが、起業家になる為には、後天性の努力だけで無く、その人が育った環境、先天性の性格等が必要だとは、誰も言わな い。努力だけで成功する物では無く、ある程度の素質と言う物も、起業家になるには必要な要素だと感じるのである。  

私の独断と偏見のみで、書いてみたブログ記事である訳だが、起業家の皆さんがどう思われるか、感想を聞いてみたいものだ。どこまで、私の見立てに賛同して 貰えるのだろうか。    

高野大輔
米国公認会計士

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