Monday, February 11, 2019

第24回JABIサロン「日本の農業とテクノロジー」

開会のあいさつ
去る2月1日に本年初のJABI サロンが開催されました。テーマは「日本の農業とテクノロジー」と題して、豊橋技術科学大学 環境・生命工学課程の吉渡匠汰さんに、彼の研究について話をしていただきました。また、講演第2部としては、豊橋技術科学大学環境・生命工学系講師である東海林孝之先生に「CFD(数値流体力学)による植物工場内環境評価」という演題の話をしていただきました。





ロボット業界で仕事をしている私にとっては、高齢化が進んでいる中、製造や物流以外では医療福祉ロボットや農業ロボットが重要な課題であると日頃から思っているので、本テーマは個人的にも非常に興味のあるものでした。


講演する吉渡さん
年々農業従事者の減少・高齢化が進んでいます。農業離れで従業者が減っていくなか、65歳以上の従業者の割合が68%以上を占めています。農林水産省によるデータでは5年以内に離農する40歳未満の就農者は30%にもなるとの説明がありました。このままでは、農業に携わる人たちがいなくなり、日本の食が危うくなるのは簡単に想像できるのではないでしょうか?
よって、日本の農業では、農作業の効率化や自動化が求められており、その内容としては、個人農家が統計学の知識を用いて、効率のよい栽培を行うものから、LED光や人工の二酸化炭素を用いて建物の中で野菜を育てる完全人工光型植物工場まで様々であるとの説明がありました。


スライド
農業において、日照り、温度、湿度、土壌、天候などの環境地が植物の光合成、蒸散、呼吸、発芽などに影響を与えます。農家たちは過去の経験からノウハウとしてそれらを持っています。現状では、それらをデータ化し、植物工場で利用するとか、深層学習で青果物の等級判別を行う等の努力がされていると説明がありました。
農業離れのなか、異業種企業の参入は昔から行われています。しかし、2012年の日本政策金融公庫の調査によると、農業参入企業のうち黒字化した企業は30%でしかないという説明には驚きました。

日本施設園芸協会の調査によると、人工光型植物工業197箇所(2017年2月)のうち、80%は赤字、そして農林水産省の調査によれば2003〜2009年に参入した企業の24%が撤退というデータ結果が出ており、その結果には正直、悲観的な感じがします。

講演に耳を傾ける聴講者
こういった状況のなか、より効率の良い成果が得られるプロセスノウハウが研究されており、シミュレーションによる設備の最適化からIoTの活用による環境モニターを通して将来的には自動化が可能になるかもしれません。

吉渡さんによると、農業の技術で有名なオランダでは農家・企業・大学が連携し、施設園芸や農法に関して研究や実用化が行われているそうです。日本でも農業に参入する企業が増えてきており、ますます農業の工業化による農業の発展を期待したいと思いました。


近年、植物工場にはセンサーを始めとした様々な技術が導入され、農業従事者の経験と勘に頼っていた環境制御を、データに基づいたものに移行する流れが大きくなっています。環境制御の目的は植物工場内の環境(気温、湿度、気流、CO2濃度等)を均一に保ち、作物の安定生産および品質を維持することであるが、植物工場内の環境要素の詳細分布を知ることは一般的には困難であるらしいとのコメントで東海林先生の講演が始まりました。
講演する東海林先生

そこで東海林先生の研究では上記環境要素の詳細な分布をCFDにより予測し、均一化するための方法を調べることをテーマとしており、発表では強制換気型ハウスの気流・熱環境解析のシミュレーションが論じられました。

スライド
地域気象モデル、数値流体力学モデル、植生モデルをもとに構築した植物工場モデルに対して、IoTでモニターしたデータを農学、生物学、化学、電気、コンピューター技術など、様々な分野の知識で環境制御するというのが自動化の最終形態であるという説明でした。








講演して頂いたお二人に感謝状を授与!
しかし、製造業の自動化とは違い、管理できない多くの要素がある農業では、自動化に向けての第一歩が始まったところかなと感じました。人間が生きていく上で一番大事な「食」に関する農業の自動化の話であり、「日本の食」の将来を考えさせられる非常に有意義な講演会でした。

吉渡さん、東海林先生、ありがとうございました。




ナディア会長からのあいさつ
JABI新年会の一コマ

講演の後、JABI新年交流会に転じ、中華料理のテイクアウトやワインを堪能しながら、講演者の二人を囲んで会話が弾んだ金曜日の夕方でした。Happy New Year!

大永英明
Co-Founder, JABI